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鹿児島地方裁判所 昭和48年(わ)36号 判決

被告人 田中キヨ子

昭四・九・九生 養豚業

永江養豚組合

主文

(被告人田中キヨ子について)

被告人を懲役三年に処する。

未決勾留日数中二〇日を右刑に算入する。

この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用(証人中原良平に支給した分)は被告人の負担とする。

(被告法人について)

被告法人を罰金一五万円に処する。

理由

(罪となるべき事実)

〔背任〕

被告人田中キヨ子は、鹿児島県枕崎市西鹿篭一〇五番地に所在する農事組合法人永江養豚組合(以下永江養豚という)の理事であるが、右永江養豚が昭和四〇年二月頃より枕崎市漁業協同組合(以下漁協という)に法人名義および理事中村礼子名義で当座貯金口座を設定しこれを利用して手形・小切手等の決済をなしていたところ、次第に事業不振に陥り、右各当座貯金の不足を来たすこととなつたため、同漁協の信用部長として同漁協における金銭の貸付、貯金の受入・払戻し等の事務を処理し、枕崎手形交換所において同交換所加盟の各金融機関から同漁協に受入れた手形・小切手のうち当座貯金不足により不渡処分に付すべきものがあつた場合にはその翌日いわゆる逆交換にかけて前日決済分を回収すべき任務を有していた篭原勝己と共謀のうえ、不渡処分を免れしめるなど右永江養豚の利益をはかる目的をもつて、昭和四五年一〇月二八日頃から昭和四七年四月二二日頃までの間、右永江養豚あるいは中村礼子各振出の同漁協を支払場所とする満期の到来した約束手形約一七四通、各取引先の振出で右永江養豚引受の為替手形約二〇〇通、右永江養豚あるいは中村礼子各振出の同漁協を支払場所とする小切手約一〇一通(以上額面総合計約二億一、九〇〇万円)がいずれも枕崎手形交換所加盟の各金融機関から鹿児島県枕崎市折口町六六番地所在の同漁協に受入れられるや、右篭原勝己において、右各当座貯金残高が不足し、したがつて右各受入手形・小切手はこれをいわゆる逆交換にかけて各持出銀行に返却し、前日決済に係る右各手形・小切手金の回収をなすべきであつたにもかかわらず、右各手形・小切手合計約四七五通をいずれも各持出銀行に返却せず、引続いて同漁協内に保管し、もつて同漁協に対し右手形・小切手金合計額と同額の財産上の損害を加えたものである。

〔水質汚濁防止法違反〕

被告法人農事組合法人永江養豚組合は、鹿児島県枕崎市西鹿篭一〇五番地において水質汚濁防止法に定める特定施設である豚房施設(豚房の総面積約六、五〇〇平方メートル余)を設置して養豚業を営むもの、被告人田中キヨ子は同組合の代表者(理事)として同組合の運営等の業務に従事しているものであるが、被告人田中キヨ子において、同組合の業務に関し、

第一、鹿児島県知事金丸三郎から、昭和四八年一二月二七日付で、特定施設である右豚房施設から排出する排出水の汚染状態が当該施設の各排水口において法定の各排水基準に適合していないから昭和四九年六月三〇日までに汚水処理施設を設置するなどして右特定施設の汚水の処理方法等を改善するように命じられたにもかかわらず、右期限までに右命令に応じた改善をなさず、もつて鹿児島県知事の右命令に違反し、

第二、別紙「排水基準に適合しない排出水の排出一覧表」に記載のとおり、昭和四九年七月一日と同月八日(各日間平均)、右豚房施設の各排水口において、その汚染状態が法定の各排水基準(生活環境に関する項目である化学的酸素要求量、浮遊物質量、大腸菌群数についての各「一般基準」)に適合しない各排出水をそれぞれ排出し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人田中キヨ子につき

一、判示背任の所為につき

刑法六〇条、二四七条、罰金等臨時措置法三条一項一号(刑法六条、一〇条により昭和四七年法律六一号による改正前のもの)、所定刑中懲役刑選択

一、判示水質汚濁防止法違反のうち第一の違反につき

同法三〇条(一三条一項)、所定刑中懲役刑選択

一、同第二の各違反につき

各同法三一条一項一号(一二条一項、三条一項、二項、排水基準を定める総理府令一条、同府令別表第二)、同一日(日間平均)に同一排水口から数個の排水基準に違反する排出水を排出した点は、一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、各刑法五四条一項前段、一〇条により、各一罪としてそれぞれ犯情の最も重い各大腸菌群数についての排水基準違反の罪の刑で処断、所定刑中各懲役刑選択

一、併合罪処理につき

(判示水質汚濁防止法違反のうち第二の各違反につき同一の特定施設から排出水を排出する場合であつても、異なる数個の排水口からのものは、併合罪関係に立つ数個の違反。同一の排水口から排出水を排出する場合であつても、日を異にするものは、併合罪関係に立つ数個の違反)

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(最も重い背任の罪の刑に加重)

一、未決算入につき

同法二一条

一、執行猶予につき

同法二五条一項

一、訴訟費用負担につき

刑事訴訟法一八一条一項本文

被告法人につき

一、判示水質汚濁防止法違反のうち第一の違反につき

同法三四条、三〇条(一三条一項)

一、同第二の各違反につき

各同法三四条、三一条一項一号(一二条一項、三条一項、二項、排水基準を定める総理府令一条、同府令別表第二)、各観念的競合(前同)の点につき各刑法五四条一項前段、一〇条(各一罪としてそれぞれ犯情の最も重い各大腸菌群数についての排水基準違反の罪の刑で処断)

一、併合罪処理につき

同法四八条二項

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 栗原宏武)

別紙(略)

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